March, 2020
私はふと、彫刻には4つの解体があることに気がついた。
一つ目は偶像破壊と呼ばれる、像が表象するイデオロギーの否定を目的とした破壊。destruction。
二つ目は風化による劣化、崩壊。disintegration。
三つ目は建造、輸送を目的とした分割。division。deconstruction。
四つ目は世界各地の神話や土偶文化に見られる像の破損、欠損。fragmentation。
一、宗教的、政治的思想の衝突による偶像の破壊(撤去)。例えばイスラム過激派による文化遺産の破壊、明治時代の廃仏運動、アメリカ南北戦争を象徴する権力者像の撤去運動。近年では平和の少女像a.k.a慰安婦像にまつわる論争が記憶に新しいが、このことは偶像彫刻が人間社会において未だに強い影響力を持つことを私たちに教えてくれる。ちなみに三分割された「ハイヌウェレの彫像」は組み合わせると(古典的な彫像スタイルでもあり、少女像のポーズでもある)座像の形をとっている。
二、時に彫刻作品は、解体の過程においても美的な強度を損なわず、むしろ断片や不完全な形の状態の時、強い存在感を持つことがある。博物館で見る古代エジプト彫刻の断片や日本の破損仏の持つ不思議な魅力などがその例である。学生時多くの人体塑像を作ったが、それらを壊す時に垣間見える断片化された人体の美しさは印象的であった。
三、近年、大型の彫刻作品を発表する機会が多くあった自身は、作品を展示するたびに「制作ー分割ー輸送ー組み立て」の工程を繰り返した。はじめは必要に応じた作業に過ぎなかったが、回数を重ねるうちに、その工程のなかで生じる技術や、分割に伴う造形を面白く思うようになった。巨大な自由の女神像の表面はたった2.4ミリの銅板でできており、それらは350個のパーツに分解されフランスから輸送されたという。分割することで見える彫刻の内と外、断面と表面、塊と空洞。
四、縄文土偶はその多くが一部を破損、紛失した状態で発掘される。完成した像を壊しその破片を土に撒くことで、豊穣を祈願していたとされる説もある。興味深いのは、破壊されて見つかった像のすべてが女性を表しているという点である。この縄文土偶の特徴と、世界各地に存在する”ハイヌウェレ型”と呼ばれる食物起源神話を結びつけて読み解く学説がある。古事記におけるオオゲツヒメの話など、殺された女神の死体から作物が生まれたとするストーリーである。
彫刻はいつからか、創造することの裏側で、解体することにも意味が与えられてきたようだ。
四で記述した、”彫刻の破壊”として表象される”女神の殺害”は私にとって最も興味深いテーマである。豊穣祈願というポジティブな思考と、像の破壊というネガティブな行為が不思議なリンクによって結び付けられている。それはネイティブアメリカンのポトラッチという儀式で行われる、貴重品の破壊(犠牲)によって富を循環させるという発想にも通づるところがある。また、人間にとって生命を増やすポジティブな営みである出産が、同時に母体にダメージを与えその命を奪う場合もあることから、女性が生と死を象徴する存在として偶像化されてきたことは想像できる。殺害と再生、破壊と生産、死と生。
womb(子宮)とtomb(墓)は言語学的につながっているという。